大切にしたい森林を敬う心

森のこと

 以前、所有林を手放したいという相談を受けた。誰かに斡旋するにしても現地の状況を確認しないと何もはじまらないので、とりあえずいつものように図面を片手に調査に向かった。そこで目に飛び込んできた景色に唖然。トロになる部分だけを収穫し、その他多くの利用できる丸太をあらちこちらに投げ捨て、枝葉は沢目に盛り上げてあるという、今まで見たことないその姿にただただ茫然し、目を覆いたくなったことを今でも覚えている(写真)

 裏話があって、実は所有者は立木を「山師」に売却していて、契約から10年経っても山師は作業に入らないでいた。山師といっても自ら立木を伐採して木材を流通する場合もあれば、山師から素材生産業者に依頼(請負)する場合もある。今回の場合はどうやら後者のようだった。私の場合はいつも伐採搬出期限を契約書に明記していて、およそ3年から5年ぐらいを目安に設定している。それは樹木は年月とともに生長し時間とともに資産価値が変化するため、期限を設定することはとても重要だからだ。それ自体当然の話しかもしれないが、所有者が交わした契約書には期限が明記されていなかったらしい。

 「山師に聞いた方が良い」と促したのは私だ。恐らく、それを受けて慌てて作業に入ったのだろう。契約した者と作業を請け負った者が違う場合、特にこういうことが起こりやすい。請け負った業者は、お客さんの顔が見えていないので、「急いで」という促しに対し、こういった仕事に繋がってしまったのだと推測する。私が調査に向かったのは作業終了後というわけだ。ちなみに写真中に小さくみえるピンクテープは、私が隣の所有者との境界を確認した印。メチャクチャにも程がある。

 いくら森林や林業に関心が薄くなった時代とは言え、日本人はいつからこんなに自然を軽視するようになったんだろう。先祖から代々受け継がれ、時間を掛けて育った森林を一瞬にしてこんな状態にしてしまうなんて、本当に情けない思いで一杯になる。土壌があって、樹木があり、水を育む。そこに微生物から動植物まで、あらゆる生命がそこに宿っている。だから我々林業に携わる者は収穫だけを意識していていてはダメだ。あらゆる想像と感謝の気持ちをもって森林に向き合うべきだ。

 この森林について、相談を受けたからには何とかしたいと思っている。しかし、現状では引き継ぐ者はいないだろう。時間を頂きながら、手立てを考えていきたい。

 今自分にできることを精一杯に、そして森林の恵みに感謝して、後世に誇れるものを残していきたい。その一助になれるよう、もっともっと頑張らなければならないと思った一件だった。

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